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HP

世界のどこか。あなたの知らない世界。

​偶然が交わった、ある日の世界。

【Novel】

この城で迎える、三度目の秋が来た。

水面に映る影で、大量の小舟がこっちに近づいてくるのが見えた。

ああ、今年もこの時期か。などと少年は思う。

今年の入学式もこっそり抜け出した。 いなくたって気づくのはフユトぐらいだし、大した問題じゃない。

少年は式典、というよりは人の多い場所は好きではなかった。

今年は少年の弟も入学するが、「まあ、あいつはあいつなりにやるだろう」とそこまで気にしていない。

そういえば弟は元気だろうか? 手紙ではよくやりとりしているけど……。

そんなことを考えながら、本のページをめくった。

 

 

 

 

 

 

「……また本読んでるよ」

 

声をかけられて顔を上げると、そこには友人がいた。

「……なんだよ、いたのか」

「さっきからずっといたわ!」

 

友人―――フユトは腰に手を当てて怒った顔をする。

 

「ったく、今年もサボりですかい。優等生君よ?」

「いいだろ別に。興味もないし」

 

少年が答えると、フユトは呆れたようなため息をつく。

 

「まったくお前は……自室に籠るでもなく、談話室で堂々とサボれるお前はすごいと思うよ……」

「どうせ誰も気にしないんだし、ここで何しようが同じだろ」

 

少年の言葉に、フユトは苦笑いを浮かべた。

 

「新入生が入って来てるのに、気づいてないお前が不用心で危ないから言ってるんだよ」

 

言われて、少年は周囲を見る。

確かに何人かの新入生らしき生徒達が、こちらを見て何か話していた。

 

「……あいつはこっちに来なくて済んだのか」

「……リンクス?」

「いや、なんでもない」

少年----リンクスは再び視線を落とし、読書を再開した。

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