***
初めて意識というものを持ったとき、そこは薄暗いせかいだった。
黒い影が化物と、僕を指さして言った。
意味は分からなかったが、僕は「化物」という名がつけられた。
指をさされる意味を、僕は知らなかった。
他者と違う理由を、僕は知らなかった。
彼らの言葉の意味を、僕は知らなかった。
僕はそういうものなのだと自然に受け入れていた。
***
物理的以外の痛みがあることを知ったとき、君がそこに立っていた。
「あいつらが化物っていうからどんなものかと思えば……ずいぶんと小さいな」
「ああ、僕はお前を傷つけに来たわけじゃない。そして、あいつらの見世物にする気もない」
「……僕と一緒に来ないか?」
***
目が覚めたとき、きれいな空の彼が隣にいた。
「起きたか」
「 」
「……あー、模倣できてないのか。今は喋れなくてもいいよ。後で教えてやる」
「 」
「……うん、まあいいや。僕はキリル。お前を拾ったやつってことでいい」
「 、 」
「僕とお前は、今日から家族だよ。冬宮」
***
音を紡げるようになったとき、吸血鬼にであった。
「あら、珍しいものを抱えてるのね」
「……家族だよ」
キリルは不機嫌そうに言った。
「ふふっ、これは失礼」
「にー」
「ああ、こいつはナイトメア。吸血鬼っていう……わりには吸血鬼っぽいことはしないよな」
「そうかしら。もしかしたら夜な夜な人を襲ってるかもしれないわよ?」
「そうだったら証拠を取ってからしかるべき対応をするだけだし、あいつらから何も言われてない」
「相変わらず冷静なのね。でもそんな人間が」
ナイトメアが僕を見つめた。
「こんな小さな子のことを怖がってるだなんてね」
「め、あ」
「ねえキリル。この子、うちの子にしない?」
「だ・め」
***
足で地を踏めるようになったとき、獣人に出会った。
獣人が僕を見てからキリルを見た。
「キリル殿、このような場に子供を連れては……」
「こいつには経験を積ませたいんだ。悪い」
「いや、これは失敬。確かにキリル殿としー殿だけでは大変でしょうしな」
「そー。僕は、にーさんの、剣になるの」
僕は深くかぶった布の中から獣人を見た。
獣人は目を細めると、僕の頭に触れた。
「ほっほ、ずいぶんと頼もしい人材を見つけましたな」
「当然。僕らには時間がある。ゆっくりと育て切ってやるさ」
「キリル殿がゆっくりとやるならば、その頃には私めは隠居でしょうな、はっはっは」
「いん、きょ?」
「……僕らはずっと長くを生きれる。でも、他はそうじゃないってこと」
***
人の形を維持できるようになったとき、エルフと出会った。
「あなたの剣、ずいぶんと弱いのね」
「まさか。油断していると寝首を掛かれますよ」
「あなたに相応と言っているのですよ」
「……ねえ」
胸の中をどす黒い感情が埋めた気がした。
「冬宮!」
「弱いかは、自分で確かめるべき。それを見ないで弱いは、無知」
「あら、本気にしていて?精々つぶされないようにするのね」
「兄さん、僕……あいつ、嫌い」
「わかってるよ。でもな、僕らには取っ払えるほどの勢力はないんだよ」
***
世界を黒が覆ったとき、深淵の深さを知った。
沈む、沈む、とてつもない恐怖。
光が見えない、痛い、痛い、頭が割れそうだ。
対峙していた大きな闇が、ニタニタと笑っている。
××が、見下ろしていた。
僕だけが知っている。
僕だけがこの戦争の答えを知っている。
寒月は、ラムレザルは、しーちゃんも。
キリルでさえ知らない。
僕が持ち帰らなきゃいけなかった情報も全て吞まれてしまう。
「 、 」
門が開く音がした。
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