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Side XX




***


初めて意識というものを持ったとき、そこは薄暗いせかいだった。


黒い影が化物と、僕を指さして言った。

意味は分からなかったが、僕は「化物」という名がつけられた。



指をさされる意味を、僕は知らなかった。

他者と違う理由を、僕は知らなかった。

彼らの言葉の意味を、僕は知らなかった。


僕はそういうものなのだと自然に受け入れていた。


***


物理的以外の痛みがあることを知ったとき、君がそこに立っていた。


「あいつらが化物っていうからどんなものかと思えば……ずいぶんと小さいな」


「ああ、僕はお前を傷つけに来たわけじゃない。そして、あいつらの見世物にする気もない」


「……僕と一緒に来ないか?」


***


目が覚めたとき、きれいな空の彼が隣にいた。


「起きたか」


「       」

「……あー、模倣できてないのか。今は喋れなくてもいいよ。後で教えてやる」

「   」

「……うん、まあいいや。僕はキリル。お前を拾ったやつってことでいい」

「   、    」


「僕とお前は、今日から家族だよ。冬宮」


***


音を紡げるようになったとき、吸血鬼にであった。


「あら、珍しいものを抱えてるのね」

「……家族だよ」


キリルは不機嫌そうに言った。


「ふふっ、これは失礼」


「にー」

「ああ、こいつはナイトメア。吸血鬼っていう……わりには吸血鬼っぽいことはしないよな」

「そうかしら。もしかしたら夜な夜な人を襲ってるかもしれないわよ?」

「そうだったら証拠を取ってからしかるべき対応をするだけだし、あいつらから何も言われてない」

「相変わらず冷静なのね。でもそんな人間が」


ナイトメアが僕を見つめた。


「こんな小さな子のことを怖がってるだなんてね」


「め、あ」

「ねえキリル。この子、うちの子にしない?」

「だ・め」


***


足で地を踏めるようになったとき、獣人に出会った。


獣人が僕を見てからキリルを見た。


「キリル殿、このような場に子供を連れては……」

「こいつには経験を積ませたいんだ。悪い」

「いや、これは失敬。確かにキリル殿としー殿だけでは大変でしょうしな」

「そー。僕は、にーさんの、剣になるの」


僕は深くかぶった布の中から獣人を見た。

獣人は目を細めると、僕の頭に触れた。


「ほっほ、ずいぶんと頼もしい人材を見つけましたな」

「当然。僕らには時間がある。ゆっくりと育て切ってやるさ」

「キリル殿がゆっくりとやるならば、その頃には私めは隠居でしょうな、はっはっは」


「いん、きょ?」

「……僕らはずっと長くを生きれる。でも、他はそうじゃないってこと」


***


人の形を維持できるようになったとき、エルフと出会った。


「あなたの剣、ずいぶんと弱いのね」

「まさか。油断していると寝首を掛かれますよ」

「あなたに相応と言っているのですよ」

「……ねえ」


胸の中をどす黒い感情が埋めた気がした。


「冬宮!」

「弱いかは、自分で確かめるべき。それを見ないで弱いは、無知」

「あら、本気にしていて?精々つぶされないようにするのね」



「兄さん、僕……あいつ、嫌い」

「わかってるよ。でもな、僕らには取っ払えるほどの勢力はないんだよ」


***


世界を黒が覆ったとき、深淵の深さを知った。


沈む、沈む、とてつもない恐怖。

光が見えない、痛い、痛い、頭が割れそうだ。

対峙していた大きな闇が、ニタニタと笑っている。

××が、見下ろしていた。


僕だけが知っている。

僕だけがこの戦争の答えを知っている。


寒月は、ラムレザルは、しーちゃんも。

キリルでさえ知らない。


僕が持ち帰らなきゃいけなかった情報も全て吞まれてしまう。


「  、      」


門が開く音がした。

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