関連:ねここ。さんからの交流1
「夜は暗いから少しぐらい身体を伸ばしていても気になりにくいな。物理的な話だ」
ぐぐ、と足を延ばす。
自分の身体からうにょうにょと"本体"が姿を現すが、今日の見張りのもう片方はこういうものには慣れているだろうと気を抜く。
彼も自分から同じようなことはしていたので大丈夫だろう。
「しーさまは、友人って何をするものだと思う?」
仮面の青年は見張りをしているこの状況に飽きてきていたようだ。
焚火の明かりで微かに見える、蠢くそれに目を向けていた彼から唐突に出てきた疑問に、しーちゃんは不思議そうな顔をした。
「それは、定義からの話か?一般論?個体感?」
「面白いから聞いておきたいだけだ。しーさまの答えでいいよ」
「そうだな。……友人か」
少し考えるような仕草をした後、彼女は答えた。
「一緒にいて楽しい、とかじゃないか?」
「それだけ?」
「……いや、もっとあるが。でもそれが一番だろう」
「ふうん……」
納得のいく答えが返ってきたのかそうでないのかわからないが、仮面の青年はまた考え込んだようだった。
そんな彼に、しーちゃんはくすりと笑う。
「なんだ、"友人になれ"とか"お前は友人だ"とでも言われたのか?」
「……まあ、そんな感じ」
しーちゃんの問いに、仮面の青年は肩をすくめた。
心当たりがあったのだろう、しーちゃんは座り直すと一つの問いを彼に投げた。
「お前は、血のつながりもないが共に暮らすものを家族だと思うか?」
「突然だな。それは、しーさまの話?」
「はは、私にはそもそも血なんてないだろう?」
「それもそうだ」
くすくすと少し笑い合った後に、しーちゃんは再び問いかける。
「それで、どうなんだ?」
「さあ。どう思う?」
しーちゃんの質問に、仮面の青年は質問で返した。
今度はしーちゃんが肩をすくめる番だった。
「……当時の私は家族とは思わなかったさ。キリルが拾ってきたあれは、危険なものだと感じていた。キリルが保護する、と言った時には耳を疑ったものだ。……今は、どうだろうな。私自身、同胞は居たが家族というものは居なかったからな」
「煮え切らない答えだな」
しーちゃんの言葉に仮面の青年が返すと、彼女は苦笑した。
「きっと家族も友人も、そう感じるものなのだろうな。だからこそ、通常の計算では1+1が2になるような、確定的な答えがない」
そう答えたしーちゃんはどこか遠くを見るような目をした。
そして伸ばしていた触手を仮面の青年の頭にぽんと置いた。
「かつて、お前と同じ質問をしてきたやつがいた。"友人と言われたが、友人とは何か"、と」
「へえ。それで、なんて答えたんだ?」
「私は辞書的な友人という意味をいくつか答えた。尊敬、信頼、愛情、友情……そして私は一通りの意味を教えた後にこう言った」
しーちゃんは一呼吸置くと、仮面の青年の顔を覗き込む。
それからしっかりと目線を合わせてから言った。
「"自分で考えろ"と」
仮面の青年は少し驚いたような顔をした。
そんな彼を見てしーちゃんはくつくつと笑う。
「ははっ。全て分かったか?」
「……なんとなくな」
「そうか。安心しろ。数千年経っても数億年経っても、その答えは一つになった試しがないからな」
しーちゃんは仮面の青年の頭から触手を離すと、またぐぐ、と伸びをした。
「さて、そろそろ時間だ。朝日が昇り始める」
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