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1-1.前日譚

目の前の焚き火がパチパチと燃える音だけが響く。

辺りは既に暗く、空には星々が輝いている。

 

「真面目なのはいいけれどさ、人間は夜に休んだほうがいいんだろ、キサ。」

 

辺りの見回りをしていた冬宮が、キサに声を掛ける。

 

「……眠れなくて」

「なんだよ、緊張してるの?」

 

冬宮はからかうように言うと、キサの隣に腰掛けた。

 

「明日の調査個所は既に廃墟の研究所だ。危険性は低いけど、休んでおくほうがいいと思うよ」

「……うん」

 

キサは小さく返事をして、再び視線を焚き火へと向ける。

ゆらゆらと揺らめく光に移るキサの表情にははっきりと不安の色が浮かんでいる。

冬宮はため息を一つつくと、右手をそっとキサに差し出した。

 

「……?なに?」

「手を繋いでいれば安心するだろう?ほら」

 

そういって手を差し出したままの体勢でいる冬宮。

キサは恐る恐る冬宮の手に触れる。

 

「安心して、軽い精神操作の魔術だから。余計なことはしないよ」

「あ、ありがとう」

 

キサは恥ずかしげに礼を言うと、目を瞑った。

冬宮はそれを確認すると、もう片方の手でゆっくりとキサの頭を撫でた。

そして、キサが完全に眠ったことを確認して、呟く。

 

「お休み、キサ。良い夢を」

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