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「I wish you a merry Christmas.」

  • 執筆者の写真: 紀沙 冬宮
    紀沙 冬宮
  • 2024年12月25日
  • 読了時間: 2分

 ※ヴァーメル、GL




 クリスマスとは良い子のための行事である。


 はるか昔……いや、そんなにではないけれど。

 まだ10もいかぬほど幼かった自分にも、サンタクロースは来た。

 枕元に置かれた小箱には木でできた小さな置物が入っていて、大切に飾っていたのをよく覚えている。







 あの日までは。


 戦火は、全てを焼いた。

 家も、村も、家族も。

 そしてオレは、将官に拾われて人殺しの軍人になった。


 だからもう、サンタクロースにプレゼントをもらえるような良い子ではないんだ。

 そう、思っていた。





 そう思っていたから、オレは早朝に目を覚まして。そこにあった物に動揺を隠せなかった。


「くくくくく、クヴァメルぅ!!!!?」

「ひゃ、ヴァーツさん!?ど、どうしたんですか。そんなに慌てて……」

「こ、これ……」


 そう言ってオレはクヴァメルに、抱えていたものを見せる。

 それは丁寧に包まれた箱だった。


「あ、それ……サンタさんですね」

「え?」

「え?」


 オレは、クヴァメルの言っている意味が理解できなかった。

 サンタ?あの?

 クリスマスに枕元に置き配していくあのサンタクロースのことだろうか。


「サンタさんはご存知ですよね?」

「い、いや。さすがに知ってるが……」

「そのサンタさんが、ヴァーツさんへのプレゼントを持ってきてくださったんですよ」

「……え?」


 そんなわけがない。

 あの年から、サンタクロースなんて一度も来なかった。

 人殺しは正義になっても悪いことだから。だから、オレは悪い子のはずで。

 サンタクロースなんて来るわけもなくて。


「いや、でも……オレは……悪い子だろ」

「ヴァーツさんは、悪い子なんかじゃないですよ。サンタさんからプレゼントをもらえる良い子です」

「……そっか……そう、なのか……」


 良い子とは、何だっただろうか。

 幼い頃は、きっと良い子だったのだろう。

 しかし、今は?

 死体を起こす冒涜をして、人殺しをして、軍部も国も裏切って全てを滅ぼしたオレは本当に良い子だとでも?


 でも、腕の中の箱は現実に存在していて。


「……クヴァメル。オレは、良い子か?」

「ええ。ヴァーツさんは、とても良い子です」

「そっかぁ……はは。陸と海の中じゃあ、良い子の基準が随分と違うんだな」


 オレは、サンタクロースからのプレゼントを、大事に抱えた。

 オレが良い子だったのか、それはまだ分からないけれど。

 それでもきっと今だけは、幼いあの頃を思い出してもいいはずだから。

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