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寝起き

  • 執筆者の写真: 紀沙 冬宮
    紀沙 冬宮
  • 2024年11月12日
  • 読了時間: 2分

あのときの感覚は未だに覚えている。

薄れゆく意識の片隅で思ったのは、僕は彼を信じていたんだという、思考だった。



***


ゆっくりと意識が浮上する。瞼を開けば、見慣れた天井。

いつもと違うところといえば、僕の視界に彼がいることだろうか。

こちらを抱きしめて眠る彼は、昔とは違う黒髪をしていた。

けれどその顔立ちは、僕の記憶にあるものと変わらない。


「……あたたかいな」


彼の体温を感じながらそう呟く。

生きているのだなと思うと同時に、再会は夢ではなかったのかとも思う。

でもあれも現実だ。僕は確かに、この手で彼を殺した。

ナイフが肉を刺す感触、生ぬるい血と、生命が急速に終わりを迎える気配と、それと……



「……紀沙?」


ぼんやりとした声に我に帰る。見れば、彼の瞳が開いていて、視線が交わった。


「……ごめん、起こしちゃった?」

「ううん……」


そう言いながら、彼は僕の身体を強く抱き寄せる。


「……莉緒?」

「……俺はちゃんとここにいるよ」


まるで僕の心を読んだかのような言葉に驚く。


「……知ってる」

「そっか」


そう言って笑う彼を見ていると、なんだか泣きたくなってきた。

涙が出そうになったので、彼に見られないように強く抱きしめ返す。


「痛いよ、紀沙」

「我慢して」

「えー……」


文句を言いながらも、僕を振りほどこうとはしない。それどころか僕の頭を撫でてくる。

こんな風に甘やかすから、僕はどんどん駄目になるんだろうなあ。


「ねぇ、紀沙」

「ん?」

「俺はちゃんと、ここに居るからね」

「……うん」


彼の胸に顔を押し付ける。温かい。

生きてるなあと思うと同時に、このぬくもりを手放すことなんてもうできないなと確信した。

春の日

穏やかな日差しが差し込む。 隣に温かな熱を感じながら、今日も朝を迎えれたのを実感する。 腕の中では静かな寝息を立てる紀沙がいる。 以前に紀沙は食事も睡眠も呼吸も本来は必要としないと言っていたけれど、必要がないだけなんだろうと思う。 「ん……」 どうやら紀沙が起きたようだ。...

 
 

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