ざあざあと雨が降り続く。
通り雨だと思ったそれは、なかなか止みそうになかった。
大樹の下に腰を下ろしたまま、雨が止むのを待っていた。
濡れるのは嫌いだ。嫌なことばかり思い出す。
飛び交う罵詈雑言、奇妙なものを見る視線、ぐちゃぐちゃと不定形で境界線が曖昧なーー
「……はあ」
魔導書を抱えたまま、濡れた地面を見つめる。
雨は止みそうになく、当分帰れそうもない。
どうしようか、最悪魔術で雨を弾いて帰ろうか、などと思案していると。
不意に、雨が止んだ。
「ああ、ここにいたのか。冬宮」
目の前に、赤い傘を持った少女が立っていた。
「……しーちゃん」
「全く、雨の予報は出ていただろう?何をしているんだ、君は」
「あはは……新しい研究の材料を探してたら、そんなこと忘れてた」
しーちゃんはため息をつくと、僕に向けて手を差し伸べる。
「ほら、帰るぞ。私の傘に入れてやる」
「……はは、しーちゃんの身長だと僕の腰が痛くなりそうだ」
僕はその手を取ると、しーちゃんから傘を受け取る。
二人揃って帰り道を歩き出した。
「……君は雨の予報を忘れるほど能天気ではないだろうに」
「……しーちゃん?」
「……いや、別に何も。これ以上酷くなる前に帰るぞ」
しーちゃんは僕の手を強く握った。
まるで、迷子の子供を導くように。しばらく離してもらえそうになかった。
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