これをどうしようか、と。
冬宮紀沙は一人、机に突っ伏していた。
バレンタインデー。
恋人や家族など大切な人に贈り物をする日。
(なんでこれ、用意したんだろう)
彼はそれを眺めてため息をつく。
丁寧に包装された箱。中身はもちろんチョコレート。
渡したい相手はとうの昔に亡くなっている。それでも用意してしまったのだ。
渡す相手がいないなら自分で食べるしかない。しかし、それはそれで嫌だった。
バタバタと部屋の外から足音がする。
「ハッピーバレンタイン!チョコ渡しに来たよ!!何入ってるかは保障しないけど!!」
「……もう少し静かに入ってこれない?フルフル……」
ドアを勢いよく開け放って入ってきたのは知り合いの悪魔のフルフルだった。
いつもテンションが高いが、今日はさらに高い気がする。
「え、なにそれー!チョコ?チョコ貰ったの?冬宮が?」
フルフルが机の上に置かれた箱を見つけて追及してくる。
「貰ってないよ……」
「じゃあ誰に?」
「…………別に、余っただけ」
「ふ~ん、そっかぁ」
納得したのかしてないのかわからないような反応だ。
だがこれ以上追求されたくない。だから強引に話を進めることにする。
「……食いきれないからやるよ」
そう言って箱を差し出す。
「ほんと?やったね!ありがたくいただきまーす!」
嬉しそうな顔で受け取るフルフル。その笑顔を見て少し胸が痛む。
でもこれは仕方がないことだ。彼に渡すことはできないのだから。
フルフルは渡された箱を開け始める。
「ところでさ、冬宮は誰に渡したの?」
「……そういうお前こそどうなんだ?」
「私?私はメアちゃんと~、玲玲と、あと悪魔仲間たちで交換してきたな~」
「そう……」
「冬宮は誰かにあげたりしなかったの?」
「……うるさい」
図星を突かれてつい怒ってしまう。
この気持ちは誰にも知られてはいけないのだ。知られるわけにはいかないのだ。
だからもういいだろう。早く帰ってくれ。
そんな思いから、冬宮は下を向いてしまう。
「ねえ冬宮、こっち向いてくれる?」
「何……んぅ!?」
突然フルフルから口の中に何かを突っ込まれる。甘い味が広がり、そして理解する。
これはチョコレートだ。
「何するのさ……しかもこれ僕の……」
「なんでかわかる?」
「知るかっ!」
反射的に叫んでしまいハッとする。
恐る恐るフルフルの顔を見るとそこには笑みがあった。
まるですべてを見透かすように冬宮を見ている。
「私が貰えるわけないじゃん。これは私が受け取っていいあなたからの感情じゃないよ」
その言葉を聞いて冬宮は何も言えなかった。
何もかも見抜かれていた。それが恥ずかしくて悔しい。
「その想いはこうやって無下にしちゃだめだよ。ずーっとあなたのストーカーやってるんだもん。わかっちゃうよ」
「……わかってる。でもストーカーはいい加減やめろ」
渋々といった様子で冬宮はチョコレートを口に入れる。
甘いはずなのにどこかしょっぱく感じた。
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「ところでさ、フルフル。2186422-4号の瓶が見当たらないんだけど。何か知らない?」
「ちょっとよくわかんないな~」
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