「ねー、それまだ時間かかるの?もう資料読み飽きたんだけどー」
作業机に頬を乗せながら、冬宮が呟く。
その視線の先で、彼ーーーエーリアルは魔導銃の整備をしていた。
「……もう少し待て。そして邪魔をするな」
「い”っ」
そう言って、冬宮にデコピンをした後、彼は淡々と銃を分解し掃除を続ける。
「いてて……。力加減考えろよアンドロイド……」
額を押さえる冬宮に構わず、エーリアルは黙って手を動かしていた。
骨董品に加えて、所有者の普段の扱いが雑なせいで時間がかかっているのだ。
その様子を見て、銃の所有者である冬宮は小さくため息をつくと、再び椅子にもたれ掛かる。
「なあ、エーリアル」
「……」
「ここに来るの、これで最後にするわ」
ピタリと、彼の手が止まる。
しかし、それは一瞬のことで、また動き出す。
その間も、エーリアルは何も言わない。
だが、何かを言いたげな雰囲気を感じたのか、冬宮はそのまま話を続けた。
「もうさ……君、ほんとはきついんだろ」
「……何の話だ?」
「相変わらず頑固なじいちゃんだことで」
苦笑しつつ、冬宮はエーリアルを見つめる。その瞳には、どこか悲しげなものが映っていた。
「君まであの子たちの前から消えたら、彼らはどうすればいいんだよ」
「……だが、研究所の件を頼んだのは私だ」
「そりゃそうだよ。そして、僕が勝手に引き受けた」
冬宮の言葉に、エーリアルは少し驚いたように目を開く。
「お前らしくもないな。いつもなら『面倒事は嫌だ』とか言うだろうに」
「さあ?人の考えって変わるものだよ」
僕は人じゃないけどね、と言って、冬宮は再び背もたれに体重をかける。
すると、「それにさ」と付け足した。
「君は僕の友達だからね。困った時は助けたいと思うわけですよ」
「……」
その言葉を聞いた瞬間、エーリアルの手から工具が落ち、カランと音を立てた。
エーリアルは、ただ呆然と立ち尽くす。
「え、何その反応!?なんか言ってくれない!?恥ずかしくなるじゃん!!え、友達だと思ってたの僕だけ!!?」
「……すまない。まさかそんなことを言われると思っていなかった」
「そこまで驚くことかなぁ!?」
素直に謝ると、冬宮は顔を真っ赤にして叫んだ。
その様子に思わず笑いそうになるが、エーリアルはそれを堪えて言葉を紡ぐ。
「わかった、そこまで言うならこの件から手を引こう」
「そーかい」
「だが、条件がある」
エーリアルの言葉に、冬宮は首を傾げた。
一体どんな条件を突きつけてくるつもりなのか。
緊張して次の言葉を待っていると、エーリアルはその口を開いた。
「今後もこの工房を閉じる気はないし、お前はお得意様の金蔓だからな。せいぜい御贔屓に」
「……こ、このクソじじい!全然手ぇ引く気ねえ!!」
「引いてはいるさ。調整をしないとは言ってないからな」
ニヤリと笑う彼に、冬宮は悔しそうに拳を握った。
それからしばらく睨み合いが続き、先に折れたのは冬宮だった。
「あーあ、やっぱり君のそういうところ嫌いだよ!」
「私は好きだぞ」
「うっさいばか!!心配して損した!!」
子供のように喚く冬宮を見て、エーリアルはクスッと笑った。
(全く、お前は本当に変わったな)
彼は心の中で呟いた。
いつの間にか、自分よりもずっと人間らしい感情を持ち始めたこの化物の友人のことを思いながら。
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